リスニングの答え合わせで、同じ2秒を何度も巻き戻した経験はないだろうか。スクリプトに書いてあるのは "next day"。知らない単語ではない。それなのに、何度聞いても「ネクスト・デイ」とは言っていない。聞こえるのは「ネクスデイ」に近い音だけだ(カタカナはあくまで近い音である)。tは、どこへ行ったのか。
結論から言えば、消えている。話者は最初から、tをほとんど発音していない。つまり聞き逃したのではなく、そもそも音源に存在しない音を、あると信じて探していたことになる。リスニングのつまずきには、この型が思いのほか多い。
私がこれに正面からぶつかったのは、大学院試験のためにTOEICを受け直したときだった。3年近く英語に触れておらず、残された時間は2カ月。リスニング対策は、公式問題集のPart 3・4を繰り返すシャドーイング(スクリプトを見ずに、音源の少し後ろを追いかけて言う練習)がほぼすべてだった。もともとリスニングには、受験期から対策という対策をしてこなかった。その借りをまとめて返すような2カ月の結果が、615点から865点。リスニングは315点から430点になった。そして点数と同じくらいはっきり思い知ったのが、発音されているはずの音が、実際には鳴っていないことだった。

ただ、ここで妙な問いが立つ。鳴っていない音は、どうすれば聞き取れるようになるのか。耳をいくら鍛えても、無い音は無いままではないのか。
英語の音が消える・化ける三つの現象——脱落・同化・フラッピング
"next day" のtに起きていたことには、名前がある。脱落だ。tやdのように息をいったん止めてから破裂させる音(破裂音)は、直後に子音が続くと、言い切られずに飲み込まれてほとんど発音されなくなる。"good morning" が「グッモーニン」に近い音になるのも同じで、dが落ちている。tは、言い忘れられたのではない。仕様として落ちる。
同化は、消えるのではなく、隣の音と混ざって別の音に化ける現象だ。代表は、tやdと、yの音(半母音の/j/)の組み合わせ。"meet you" は「ミート・ユー」ではなく、tとyが合体した「チ」の音(/tʃ/)で「ミーチュー」に近い音になる。"did you" も同じ仕組みで、dとyが「ジュ」(/dʒ/)に化けて「ディジュー」のように聞こえる。
フラッピングは、主にアメリカ英語で起きる。母音に挟まれたtは、直後の母音にアクセントが無いとき、舌先で一度だけ軽くはじく、ラ行とダ行の中間のような音に変わる。"water" が「ワラー」、"better" が「ベラー」に近い音になる、あの現象だ。単語のまたぎ目でも起きるので、"get it" は「ゲリッ」のように聞こえる。なお、イギリス英語ではtがはっきり残ることが多い。
| 現象 | 何が起きるか | 例 | 近い音 |
|---|---|---|---|
| 脱落 | 語末のt・dなどが発音されない | next day / good morning | ネクスデイ / グッモーニン |
| 同化 | 隣り合う音が混ざって別の音に変わる | meet you / did you | ミーチュー / ディジュー |
| フラッピング | 母音に挟まれたtがラ行・ダ行に近い軽い音になる(主に米語) | water / get it | ワラー / ゲリッ |
この三つには、仲間がいる。連結(前の単語の語末の子音と、次の語頭の母音がつながる。"an apple" が「アナポー」に近い音になる)と、弱形(ofやhaveのような機能語が弱く・短く・あいまいに読まれる)だ。連結と弱形は音の形が変わる話、脱落は音そのものが無くなる話、同化とフラッピングは別の音に置き換わる話——同じ音声変化の家族だが、起きていることは別である。家族の全体像は共通テストのリスニングが難しいのは、単語じゃなく「音」のせいだったに、連結だけを掘り下げた話は英語のリエゾンが聞き取れない——リスニング315→430でやったことに書いた。共通テストでもTOEICでも、この家族は当たり前のように出てくる。
消えた音は、耳では拾えない
では、鳴っていない音をどう聞き取るか。私の答えは、聞き取ろうとするのをやめる、だった。
ネイティブは "next day" のtを、耳で拾っているわけではない。「ネクスデイ」という崩れた音形そのものを、next dayの音として知っている。だから欠けたtは、頭の中で勝手に補われる。私たちが「すいません」を「すみません」の崩れだといちいち意識せずに理解できるのと近い。消えた音は、耳で拾うのではなく、崩れた音形ごと覚えて頭で補う。だとすれば練習の方向は、「耳を研ぎ澄ます」ではなく「崩れた形を覚える」になる。
私のシャドーイングは、振り返ればその練習になっていた。回し方——文字を見ながら0.7〜0.8倍速の音読から入り、等倍に上げ、別の日に文字を外す——はシャドーイングと音読の違い——TOEIC615→865の私の使い分けに書いたとおりで、この流れで公式問題集1冊分を約10周した。
文字を外すと、それまで目に助けられていた場所で口が止まる。スクリプトを確かめると、そこにあるのは知らない単語ではない。tが落ちて消えた場所だ。そこを、書いてある通りの発音に直さず、聞こえた崩れた音のまま真似る。繰り返すほど、「ネクスデイ」という崩れた音形とnext dayが頭の中で直結していき、消えたはずのtが、聞くたびに自然に補われるようになった。
ひとつ付け加えると、どの現象で落ちるかは人によって違う。脱落は平気なのに同化で毎回落ちる人もいれば、フラッピングだけ拾えない人もいる。だから、現象の一覧を上から順に暗記するより、自分がどの音で落ちているかを特定するほうが先だ。特定できれば、練習はその場所だけに絞れる。
実践手順——消えた音を「補える音」にする4ステップ
手順は、TOEICの2カ月で私が回していた流れを、消える音・化ける音向けに言い直したものだ。
- 落ちた場所を特定する:聞き取れなかった文のスクリプトを開き、音源をもう一度流して、頭の中の発音と実際の音がずれている場所に印をつける。単語のまたぎ目と、tの周辺に集まることが多い
- 崩れた音のまま、区切ってゆっくり音読する:「ネクスト・デイ」と言い直さない。消えた音は、消えたまま読む。速度は落としてよいが、音形は崩したままにする。ゆっくり丁寧に読もうとするとつづり通りの発音に戻りやすいので、そこだけ意識する
- オーバーラッピングをする:スクリプトを見ながら、音源に自分の声をぴったり重ねる。自分の口の崩れ方が、音源の崩れ方に重なるまで繰り返す
- シャドーイングをする:スクリプトを見ずに、音源の少し後ろを追いかける。ここでまだ口が止まる場所が、補えていない音だ。1に戻って潰す
机に向かえない時間も、この反復には使える。私は倉庫バイトの最中もイヤホンをつけてぶつぶつ追いかけていたし、職場へ向かう道中にもやっていた。
よくある失敗
一つ目は、消えた音が聞こえるまで巻き戻し続けることだ。真面目な人ほど、tが聞こえるまで同じ箇所を何度も再生してしまう。だが脱落したtは、何十回聞いても鳴っていない。粘る場所は「聞こえるまで」ではなく「その音形を覚えるまで」——向きがまるで違う。
二つ目は、復習でつづり通りの発音に直してしまうことだ。聞き取れなかった箇所ほど、一語ずつはっきり読み直したくなる。その気持ちは分かる。ただ、丁寧に読み直すほど、本番では鳴っていないtを足して覚え直していることになる。近づけるべきは、音が減ったほうの形だ。
三つ目は、現象の名前と一覧を覚えて終わることだ。脱落・同化・フラッピングという分類を知ると、それだけで少し聞き取れるようになった気がする。知識は、落ちた場所を特定する助けには確かになる。ただ、流れてくる音声の中でその音を処理できるかは別の話で、口に落とすまでの反復は省略できない。
Script Flowでの実践
この練習でつまずきやすいのは、教材の準備だ。音源があって、区切って再生できて、崩れの起きている場所まで確認できる素材は、自分でそろえようとすると手間がかかる。Script Flowでは、英文を貼るか写真で撮ると、AIが約60秒で意味のかたまり(スラッシュ)ごとに区切った教材にしてくれる。区切り単位でゆっくり再生できるので、落ちた場所だけを取り出して、崩れた音のまま口に入れる練習がそのままできる。再生速度も0.75倍から段階的に上げられる。

落ちた場所の確認は、マークで済む。聞き取れなかった文に「聞き取り」マークをつけると、その文のどこで脱落や同化が起きているかを、発音記号・口の形・カタカナの近い音つきでAIが解説してくれる。マークが教材をまたいで溜まってくると、自分が脱落で落ちやすいのか、同化で落ちやすいのか、傾向も見えてくる。
共通テスト・英検2級・TOEIC・TOEFLのプリセット教材が入っていて、登録不要・無料で今すぐ試せる。まずは音源を1本流して、「書いてあるのに、言われていない音」を一つ見つけてみてほしい。それが見つかれば、練習すべき場所はもう絞れている。