マシュマロ(匿名の質問箱)に、こんな相談が届いた。高3で、英語の偏差値は40台。ターゲット1900の1000番以降がどうしても覚えられない。音声を聞きながらや、繰り返し見る方法を試しているが、なかなか身につかない——。
怠けている人の相談ではない。音声も使っているし、繰り返してもいる。それでも覚えられないのだから、「繰り返しが足りない」という答えは、たぶん外れている。
僕が受験で使った単語帳は、学校配布のマイナーな1冊だけだ。収録は2000語ほど。高2の秋に進研模試の英語偏差値39を取ってから、その1冊を浪人が終わるまで使い続けた(このあたりの経緯は英語偏差値39から62に上がるまで——音読を疑っていた僕の2カ月に書いた)。記憶力に自信があったからではない。人生でまともに勉強をしたことが、ほとんどなかった側の人間だ。
だから、相談者と僕を分けたのは才能ではないはずだ。返信ではまず、高3で時間がない中しんどいはずだ、というところから書いた。そのうえで返した本題は、こうだ。覚えられないのは能力ではなく、時間のかけ方の問題。この記事では、その「時間のかけ方」の中身を、相談に返した答えに、普段から勧めているもう一手を足して書く。
英単語が覚えられないのは、記憶力のせいではない
相談者のやっていることを並べ直してみる。音声を聞きながら見る。繰り返し見る。手段は違って見えるが、どちらも単語帳から頭へ情報を「入れる」作業だ。入れる作業は、どれだけ丁寧に繰り返しても、覚えているかどうかを一度も試していない。本番の長文で問われるのは「見れば分かる」ではなく「自力で出てくる」ことなのに、練習の時間が見る側に全振りされている。
単語が記憶に残る主な要因は、4つある。
| 要因 | 中身 |
|---|---|
| 想起 | 自力で思い出す |
| 分散 | 間隔をあけて何度も触れる |
| 精緻化 | イメージや意味と結びつける |
| 文脈 | 例文や長文の中で出会う |
「繰り返し見る」をこの表に当てると、様子がおかしいことに気づく。自力で思い出す場面がない。ページを開くたびに全部の単語に触れるので、間隔もあかない。イメージとの結びつけも、文の中での出会いもない。つまり、かけた時間が、記憶に残る要因のどれにも流れ込んでいない。足りないのは努力の量ではなく、注ぎ先のほうだ。
中でも、僕が答えの軸にしたのは表のいちばん上、想起だ。単語を見て意味を確認する1回と、意味を隠して自力で思い出す1回は、同じ1回ではない。定着を作るのは後者だ。つまり単語は、見た回数ではなく、思い出せた回数で覚える。「何度も見ているのに覚えられない」は、この数え方でいえば、まだほとんど0回ということになる。
見た回数で数える
意味を確認して次へ。頭に「入れる」だけで、覚えているかを一度も試していない
→ 何周しても止まる
思い出せた回数で数える
意味を隠して自力で思い出す。思い出せなかった単語に×印。×だけ翌日もう一度
→ 定着はここで作られる
英単語の覚え方を組み替える——「思い出す」中心の5ステップ
- 赤シートで隠して、自力で思い出す:日本語の意味を隠し、見出し語だけを見て意味を思い出す。思い出せなかった単語には×印をつける。意味を見るのは、思い出そうとした後だ。この一瞬の負荷が「想起」で、×は次に時間をかける場所の目印になる
- 1周を高速で回す:1語ずつ立ち止まらない。100個くらいをパッパと回す。ゆっくり10個に時間をかけるより、速く100個に触れるほうが短期記憶に残る。1000番以降のような苦手ゾーンほど腰を据えたくなるが、そこでも止まらない
- ×印だけを、翌日もう一度回す:全部をやり直さない。思い出せなかった単語だけを、翌日また思い出し直す。間隔をあけて触れ直すこと自体が「分散」に当たる
- 何周しても残る頑固な単語にだけ、フックをつける:例文・イメージ・語呂・語源、どれでもいいので引っかかりを作る。これが「精緻化」だ。ただし全単語にやると時間が溶けるので、×が消えない単語限定でいい。相談者なら、1000番以降だけで十分だ
- 長文で出会った未知単語を、自作単語帳に拾う:長文や音読で出会って分からなかった単語をまとめておき、隙間時間にパラパラ見返す。文の中で出会った単語は、場面つきで頭に入る。「文脈」はここで働く
特別な勉強法は、ひとつも入っていない。単語帳も替えない。変わるのは時間の注ぎ先だけで、空いていた4つの要因に、かけた時間がまっすぐ流れ込むようになる。×が減っていくことが、思い出せた回数が積み上がっている証拠だ。手順が先にあるのではなく、記憶に残る要因の側から覚え方を逆算した形になる。
手順5の自作単語帳には、もう一つ狙いがある。単語帳と長文は、別々の勉強に見えて互いを補強し合う。単語帳で見覚えを作った単語は長文の中で拾えるようになり、長文の場面の中で出会い直した単語は、文脈ごと定着し直す。紙面の上では顔見知り程度だった単語と、場面の中でもう一度会って、名前と顔が一致する——そういう出会い直しだ。読解と単語帳は、相互に効く。長文・音読側の回し方は英語音読の正しいやり方——39→62の僕のスラッシュ音読7ステップに書いた。
英単語が覚えられないときの、よくある失敗
一つ目は、覚えられないのを単語帳のせいにして、新しい1冊に乗り換えることだ。替えた直後は、進んでいる感じがする。だが覚え方が「見る」のままなら、新しい1冊でも同じあたりで止まる。ターゲットでもLEAPでも、学校配布のマイナーな1冊でも、まず1冊を完璧な状態に仕上げる。僕の単語帳は学校配布の2000語だったが、1冊を極めた土台があれば東大や早慶レベルでも大丈夫だ、というのが僕の立場だ。ターゲット1900なら、なおさら替える理由がない。
二つ目は、1周を丁寧にやりすぎることだ。1日10個ずつ、完璧に覚えてから次へ進む。誠実なやり方に見える。だが2000語の単語帳では、1周に200日かかる計算だ。次に同じ単語へ戻ってくるころには、最初の記憶はとうに消えている。100個ずつなら20日で1周できる。1周の完成度は下げていい。速く回して、触れ直す回数で覚える。
三つ目は、全部の単語に同じ時間をかけることだ。もう思い出せる単語まで律儀に読み上げていると、時間はいくらあっても足りない。×印の役割は、時間のかけ先を仕分けることにある。覚えた単語は素通りし、×が続く頑固な単語にだけフックを作り込む。総量を増やす前に、この濃淡をつけるほうが先だ。
Script Flowのスマート単語帳でやっていること
この覚え方を回しやすくするために、僕が開発しているScript Flowには「スマート単語帳」を入れた。手持ちの単語帳をカメラで撮ると、単語一覧をアプリ内の単語帳として取り込める。いま使っている1冊を捨てずに移せるので、乗り換えではなく続きから始められる。取り込んだ単語はフラッシュカードや4択のテスト形式で出題されるから、練習は最初から「見る」ではなく「思い出す」になる。
×だけ翌日、の部分は間隔反復(SRS)が受け持つ。思い出せなかった単語ほど短い間隔で戻ってきて、覚えた単語ほど間隔があいていく。×印の管理を自分でしなくても、「思い出せなかった単語だけ回し直す」が自動で続く。
長文との連携も作った。英文を貼るか写真で撮ると、AIが約60秒で対訳つきの教材にしてくれる。その長文の中で知らない単語をマークすると、出会った文脈ごと、自動で単語帳に溜まっていく。教材をまたいで一つの単語帳に集まるから、手順5の自作単語帳がそのまま育つ。単語の追加や編集は自由にできるし、覚えにくい単語には画像を挿すこともできる。頑固な単語へのフック作りは、ここでやる。

共通テスト用などのプリセット教材も入っているから、登録不要・無料で今日から試せる。1000番以降で止まっていた冒頭の相談者に返したのも、結局この考え方だった。覚えられないのは、能力のせいではない。数えるものを、見た回数から思い出せた回数へ替えるところから始めてみてほしい。